たんぽぽ仮面のタイムライン

言葉と絵とお酒にムズムズします

〈現代用語はとにかくビビッド〉

f:id:retimeline:20211110231953j:plain

自由国民社という出版社から郵便が届いた。
中身は「現代用語の基礎知識2022」。
大学時代にお世話になった先生が執筆した記事が載っている。この一年を象徴する出来事やキーワードを厳選し解説している事典だ。

現代用語の基礎知識」の存在を初めて知ったのは私が小学六年生の年の暮れ。
実家の父がふいに「これ面白いんだぞ」と書店で買ってきた。
我が家で一番分厚い書物は「広辞苑」という辞書だったけど、その中にはない、「チョベリグ」「チョベリバ」「MK5」などの流行り言葉が「現代用語の基礎知識」には載っていた。しかもご丁寧に生真面目に、言葉の意味まで解説されていたので笑ってしまった。
こんなお堅そうな分厚い本なのに。チョベリグの使い方を説明してるよ。

今回届いた「現代用語の基礎知識2022」は、実家にあったそれよりも薄くて軽くて、表紙の色は目がチカチカするほどビビッドなオレンジ色だった。
先生が執筆したという項目をあらかじめ聞いていたので、索引からワードを選んで見当をつけて記事を読んだ。ここかなという記事にあった文章。
「批判とは本来、人物ではなく行為に向けるもの。彼の発言は非難、相手の人格否定だ。」
これを読んだときに、わあ先生だー!と思った。
執筆者の主観が入らないよう編纂される辞書とは違い、執筆者の思いがチラリと見えるのがこの事典の面白いところだ。正確性・中立性を保ちつつも、絶妙な按配でピリッと刺す。

私は今、「舟を編む」という小説を読んでいる。
辞書を編纂する編集部の奮闘を描いたストーリーだ。
登場人物の交わす鋭い言語感覚やこだわり、言葉への執念みたいなものが面白くて、物語にのめり込む。
辞書の数行のまとまり一つ仕上げるのに、多くの時間と手間が割かれて完成に至るんだな。地道な作業の積み重ね。辞書や事典の編集って凄まじい。
だからこの小説を読んでいる時にたまたま、先生の関わった事典を読むことができてラッキーだと思った。
小説も事典も、書いた/作った側の〈中の人〉の存在を感じてより一層楽しめるから。

そういえば、表紙をなんでこんなに刺激的なビビッドカラーのオレンジ色にしたんだろう。
「ビビッド」を手持ちの辞書で引いてみる。

【ビビッド】vivid
〔形動〕生き生きとしているさま。鮮やかなさま。(「大辞泉」より)

ビビッドには、生命力を感じる。フレッシュで生きがいい。だから表紙をこの色にしたのかもしれない。
現代に使われている、生きた言葉たちを記録するための書物だから。

我が家でも、子Bが「スーパー速い」「スーパー疲れた」など、後に続く言葉を強調するときに使う「スーパー」。
子Aがフライングスネイク(蛇)の説明をする時に「飛ぶ蛇。いや、『飛ぶ』というより『滑空する』」と言った。子Aの中でのその語彙のもつイメージの違い。
夫がよく使う「気がきく」に含む独特の多様なニュアンス。気配りが行き届く、気遣いがある、粋だ、マナーがしっかりしている、品性を感じる、可愛げがある。
言葉はナマモノで、生きているし死んでいく。
個人的にも、それらを少しでも書き留めておきたい。

私が「現代用語の基礎知識」を読む入り口となった流行語のページをこどもと眺める。
「▶︎やばたにえん/やばたにえんの無理茶漬け」
「▶︎ぴえん超えてぱおん/ぴえん通り越してぱおん/ぴえんヶ丘どすこい之助」
「▶︎TNJ女子」
などを見つけて笑う。数年後には消えそうなのに、確かに存在したという証拠がページに刻まれてとても輝いている。