たんぽぽ仮面のタイムライン

言葉と絵とお酒にムズムズします

〈好きと言う〉

友人が「ニハチ喫茶」と言う喫茶店のオーナーをしている。仙台市青葉区にある。

f:id:retimeline:20220117175944p:plain

 

その友人・M穂との出逢いは、小学生の頃やっていた通信教材の情報誌の1コーナー「文通相手募集!」をきっかけに文通を始めたことだった。私は当時文通が趣味だったので、文通相手が他にも何人かいた。けれど、いまだに連絡を取り合うのはM穂だけとなってしまった。

M穂はこどもの頃から感性が瑞々しくて、撮る写真は味があり対象物の選び方からセンスを感じた。たくさん本を読むからか文章を紡ぐのも上手だった。金子みすゞさんの詩集の「あとがき」に、小学生の読者からのお手紙紹介というかたちでM穂が登場していたりして、かっこいいなあと思っていた。

M穂は左官になりたいと志したり、地図をかくバイトをしたり、引っ越したり、カフェで働いたり、引っ越したり、古民家再生の活動をしたり、引っ越したり、「ニハチ喫茶」をオープンしたり、手紙がくるたび近況が変わっていた。「ひとところに留まりそうなタイプかと思っていたのに意外だな」と楽しく読んでいた。

確かにM穂は居住地だけで見ると流動的で身軽なんだけど、いつも「好きなこと」を選んでいた。それはいつもM穂の芯にあって、ブレていないことに気づいた。

f:id:retimeline:20220118204136j:plain

そんなM穂の新年の抱負の一つは「好きなことを好きと言う」。

それ、いいなぁ。年齢を重ねていくと、「ただの自分」の外側にいろんな役割やレッテルが張り付いて、屈託なく「私はこれが好き」と言える機会が少なくなってくるように思う。母親の癖に変かなとか、誰かに何か思われるかなとか。

私はコロナ禍になってから、いつどうなるかわからんと思ったので、意識的に着たいものを着て、したい髪型にして、やりたいことをやりたいと言って、やるよう心がけた。そしたら、だいぶ気持ちが楽になった。

だってこんな、ブログを書いて公開するとか、誰宛だよなんのためだよ日記にでも書いてろよって引くし、変人感満載だけど、これが好きだしやりたいからやる。それによって離れる人もいれば声を掛けてくれる人もいる。読んでくれる人もいれば興味がない人もいる。それでいい。私がただやりたいだけから。

私はこのどでかい地球のなかで塵(ちり)のような一粒にすぎない。塵のミクロな一粒が青かろうが赤かろうが、誰も気づかないし誰かの生活に影響もしない。私がある日突然モヒカンにしようがピンヒールを履こうが、きっと明日もまた陽は昇るし、夕焼けは綺麗だし、洗いたてのラグに限って牛乳をこぼされる日々が続くのだから。

さて話を戻して「ニハチ喫茶」。オープンしたと連絡をもらってから、いつかいつかと言って結局行けていない。そしたらコロナ禍になって移動がしづらくなってしまった。なんてこった、私は何してるんだ。

当記事を書くにあたってM穂に連絡をとったら、M穂からは私の予想もつかない話が返ってきて、この、LINE一発で用事が済んでしまう令和の世にあえて、数日かかる遅々とした手紙のやりとりをしたい気持ちになった。(ここでオンライン飲みしようよ、とならないのが"文通相手"なのだ)

ふと、お気に入りの小説・よしもとばななさんの「なんくるない」を思い出す。作中の「いいなぁ、こういうのがほんとうに福を呼ぶ店で、実際こういうのは、普通の人に混じって普通のふりをしているんだ」というトラくんのセリフが、私は好きだ。それを「ニハチ喫茶」には感じる。行ったこともないくせにアレだけど、なんと言ったってM穂の大切に育てているお店なんだから。きっと普通のふりをして、誰かのための居場所をぽかんと開けておいてくれる気がするんだ。f:id:retimeline:20220118204126j:plain

自分の塵の色が、この前より変わってきたなぁなんて気付く事があるとしたら、こういうところでぼーっとしている時だったりする。

▶︎ニハチ喫茶 https://www.28-coffee.com

※記事中の画像は「ニハチ喫茶」さんからお借りしました。