たんぽぽ仮面のタイムライン

言葉と絵とお酒にムズムズします

〈「鬼滅の刃」読書感想文〉

「きめつのやいば」をよんで

3ねん7くみ たんかめ

※注意 「鬼滅の刃」のネタバレを大いに含みます。最終話まで読んでの個人的考察メモとして書いているので、まだ物語の展開を知りたくない方は読まないでください!

〈目次〉←笑

(1)はじめに

私が「鬼滅の刃」を初めて観た時の感想は「不快」しかなかった。こどもが観てみたいと言うので、「立志編」の再放送を、私は家事をしつつ"ながら見"をしていた。目に入った場面は、鬼を連れた隊士(竈門炭治郎)の裁定をする柱合会議のシーンで、不死川実弥が荒ぶっていた。竈門禰󠄀豆子の入った箱を刀でいきなり刺すし、自分の腕を切って禰󠄀豆子の眼前で血を垂らして挑発。炭治郎は強く体を押さえつけられていたし、禰󠄀豆子は涎を垂らしながらも、絶対に人間を襲うまいと必死に耐えていた。

「こんなん、いじめの構図そのものでは?!放送していいの?!」

と動揺した。こども向けアニメとして流行るなんて信じられなかった。挑発して、苦しむ姿を見て笑っている。他の柱は傍観だ。

「不死川さん、大っ嫌い」

これが私の放った感想なのだが、漫画を最終巻まで読んだ今、

「不死川さん、だーいすき」

このざまである。衝撃的でしょう。でも最終巻まで読めば、あのシーンの不死川実弥の行動の意味が察せられるのだ。

不死川実弥は、最愛の母親が鬼になってしまい弟妹を襲ったという辛い過去がある。炭治郎が「俺の妹は鬼だが人を守るために戦える、これからも人を喰うことは絶対にしない」と断言することに腹が立ったんだと私は思っている。「じゃあ俺の母親はなんだったんだ?!お前の妹と俺の母親、何が違うんだよ」と。

第一、柱は連夜、命を懸けて鬼を狩りに行っている。常に戦時中の兵士のような精神状態だ、異常事態だ。だからあの態度になるのも無理はない。本編後半になるにつれわかっていくが、実弥は本当は理知的で、心根の優しい、世話好きな人間だ。他の柱たちも、鬼を連れた隊士にそれぞれの思いがあり、実弥の言動を止められなかったのではないかと思う。私が不死川実弥びいきなのがこの文字量で伝わったのではないかと思う。

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妹の買い物に付き合ってあげている不死川兄弟(現代版妄想)

(2)「贈与」の物語 〜与えられ、与えること〜

最近読了した本で「思考のコンパス」(山口周著)というのがある。ビジネス新書なのだが、ここに「鬼滅の刃」は「贈与」がキーだと書いてあって面白かった。なるほど、確かに全編通して、「贈与」が物語のベースに流れている!

「贈与」は物語のはじめからある。禰󠄀豆子が鬼となったが、水柱の冨岡義勇に見逃してもらった(第1話)。これは義勇からの「贈与」だ。鱗滝さんの元に保護してもらうことは、炭治郎と禰󠄀豆子の運命を変えた。炭治郎は、禰󠄀豆子を人間に戻すために剣士となる機会を、禰󠄀豆子は、鬼でも討伐されずに生きる機会を、「与えられた」。

このように「与えられる」場面が、いくつも、さりげなく、ストーリーに組み込まれている。最終局面の、鬼の始祖・鬼舞辻無惨の討伐まで、誰かからいつの間にか与えられていたものが、土壇場で爆発的な力となって発揮される場面が多々ある。「与えられる」シーンは例えば、以下のようなもの。

▶︎煉獄杏寿郎:列車の乗客や若手隊士の命を守って死んでいった炎柱・煉獄さん(第66話)。炭治郎ら若手隊士は、命を、言葉を、生き様を煉獄さんから「与えられて」いる。彼が死の間際に炭治郎に「与え」た「心を燃やせ」という言葉は、上限の陸戦ではこれが窮地の炭治郎を突き動かす。後に炭治郎の「反復動作」の言葉にもなった(第134話)。

そもそも煉獄さんも生前の母から、強き者がどう在るべきかと生き方の指針を「与えられて」いる(第64話)。そして実際にその生き様を懸けて炭治郎達に道筋を示した。最期に炭治郎に投げかけたメッセージの優しさよ。生き残った炭治郎が自分を責めることがないように、そして落ち込んだ後にちゃんと前を向けるように、言葉を選んで、全方位に気遣って亡くなった。

このエピソードの後では、伊之助と善逸も、鬼殺や鍛錬に対する心構えが明らかに変化している。(ちょっと煉獄さんに関しては、私の友人に洞察に長けたガチ勢がいらっしゃってそっちの話の方が面白いので、私からはこの辺でやめておきますね)。

▶︎日常のお喋り:何気ない過去の会話が、ヒントや力を「与えて」くれている。善逸がしてくれた雷の呼吸での身体の動かし方の話が、「円舞一閃」を生んだ(第125話)。伊之助のしてくれた「殺気」の話が、上弦の参を倒すヒントになった(第150話)。柱稽古の合間に炭治郎が玄弥に言った「一番弱い人が一番可能性を持っている」が、上弦の壱戦の玄弥の闘志になった(第172話)。

▶︎神楽:日の呼吸の使い手がいなくなっても、その型は神楽として正確に伝わっていた。継承という贈与の形。炭治郎の父が教えてくれた神楽の舞の型は、炭治郎の技「ヒノカミ神楽」に変化した。

▶︎禰󠄀豆子が人間に戻るシーン:鬼になってから、たくさんの人から投げかけられた(「与えてもらえた」)笑顔ややりとりが禰󠄀豆子の記憶の中にちゃんと残っていた。

他には、引退した柱が育手として技を継承していること、刀鍛冶・隠・蝶屋敷とそれぞれが自分のできる立ち位置で鬼と戦っていること、錆兎と真菰が炭治郎に託したもの、狛治と恋雪がお互いから受け取ったもの、狛治が慶蔵から受け取ったもの。「与え」たり「与えられ」たりして物語が紡がれる。

そうそう、闘いの最中の猗窩座の煽り方がさ、道場の稽古そのものなんだよね…。狛治に対しても喋りたいことたくさんあるなぁ。ええい、書ききれないので、今度飲みながらでも夜通し語り合いましょう。

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愈史郎と珠世さん(原作版妄想)

(3)歴代最強の柱たち

これは、鬼狩りとしての強さは当然として、一作品として最強だと思う。ビジュアル、キャラクター設定、生い立ち・背景、チーム編成、全ての面でカラフルで凸凹していて面白い。最強です。一人一人のキャラクターが立っているので、さりげない一言や表情・目線に至るまでなぜそういう言動に至ったのか、物語に明示されていない経緯まで容易く妄想できる。「その頃、岩柱邸では」「その頃、小芭内と蜜璃は団子屋さんで」などの妄想のタネが尽きない。

ということは、キャラクターもプロットもそれだけ練り上げられているのだ。本編に描ききれないほどの物語が背景にはあり、それを読者に感じ取らせる余白も残してくれているなんて、吾峠先生(作者)最強。

で、歴代の柱の強さを知らないけれど、この産屋敷耀哉世代の柱達が最強の布陣と想定する(小芭内が「若手が育たないし柱の席は空席のまま」ってネチってた言葉(第97話)から察するに、現役柱がめちゃつよだから一般隊士にそこまで達せられる実力の者がいないってことなんだと判断)。

この歴代最強の布陣をもって、禰󠄀豆子を抱えた炭治郎とその仲間たちが登場して、さあ役者は揃ったよ。

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時透有一郎と無一郎(現代版妄想)

(4)炭治郎達若手隊士の成長

例えば煉獄さんが生き残っていたとして、宇髄さんも引退していないとして、柱全員揃って無限城戦に突入していても、主力が柱だけでは無惨討伐に至らなかったと思う。成長過程の炭治郎たち若手隊士が必要。だって「弱い人が一番可能性を持っている」から。この言葉が、ここで効いてくる。

上弦の壱の回想で、若い世代が自分達を超えてゆくことについて縁壱が「浮き立つような気持ちになりませぬか」と言及している。自分が「与えた」ものを、若い世代が受け取って、より良くしていく未来を見据えていたのだ(第175話)。

まさに、各々の呼吸と型を洗練させて磨き上げた柱たちと、土壇場でみるみる成長していく若手隊士らの"予測のつかない伸びしろ"がかけ合わさって、仇敵・無惨の討伐に繋がる。なんて胸熱の展開なんでしょう。

各々に「与えられてきた」ものが力になる。柱も、隊士も、隠も、土壇場での力となるのは、自分が「与えられてきた」ことに気づいたから。しかも、それを与えてくれた人に直接返すのではなく自分がその時その場でできる最大限のことが恩返しとなるのだ。なんて胸熱の展開なんでしょう!(興奮してきたので2回言う)。

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小芭内と蜜璃の初デート(現代版妄想)

(5)おわりに

…もう着地点がわからないのでここで終わりにしようと思う(放棄)。

長すぎてごめんなさい。時間を奪ってごめんなさい。

吾峠先生が、「与えられて」「与えた」それぞれのキャラクターが転生して、縁のある人と日常を送っているという終わり方にしてくれたのが本当に大感謝で。私も「現世ではどうかほのぼの暮らしていてくれ」と願ってちまちま描き散らかしています。大好きな人たちと幸せに生きててくれたらいいな。

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【解説(読まなくてもいいです)】妹達の買い物に付き合ってあげる不死川兄ちゃんズ。まだ見足りない妹達と、先に食料品の買い出し済ませちゃって荷物番している兄ズ。妹達が道行く男にトイレの場所を聞いたら、男の妹らしき女子がすっ飛んできてガンつけてきた(2枚目絵)。
それを見てイラっとする実弥&なだめる玄弥(1枚目)。