たんぽぽ仮面のタイムライン

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〈映画THE FIRST SLAM DUNKレビュー〉ネタバレなしVer

公式本で公開されている情報、演出の仕方には触れますが、ストーリー自体のネタバレはないように書きますね。(ネタバレ有りVerは別の記事にします)

1.映画版のここがスゴイ

▶︎クオリティ面

何度も誰からも言われていることだけど、アニメーションのクオリティがスゴイ。モーションキャプチャを使用して10人のプレイヤーに忠実に試合を再現してもらい、それを元に井上雄彦先生(原作者)がミリ単位で膨大な量の修正を加えていった末に完成したアニメーション。

それが「原作のキャラクターが本当に生きているよう」と言われる所以。

試合のスピードはリアルタイムで進んでいき「そうだバスケってこんなに展開が早いスポーツだったな」と思わせる。試合のシーンは10人が全員バスケの動きをしているので、実際の試合を観戦しているかのような迫力。(ちなみに素人・桜木花道だけは、際立って素人っぽい動きをしているのもミソ。)

▶︎フェイントに観客もひっかかるという未曾有の体験

ノールックパスや、目線だけのフェイントなど、観客まで「あ!」とひっかかる。この演出方法は専門家が「発明」と評している(※1)。ここまでバスケットを理解し、作品に落とし込める井上先生の能力に、ただひれ伏すばかり。

▶︎原作者が自身の作品をリメイクしたという事実が最高

原作者である井上先生が脚本・監督を担い、制作初期〜仕上げまでシームレスに関わっている。だからこその徹底したこだわりをビシビシ感じる。隅々まで演出意図を感じる繊細な描写と共に、往年のファンだけがわかる小ネタなど、この創り込みの細かさが、ファンを何度も映画館に訪れさせている。

そして、毎回新しい発見をしたり、都度違う感想を抱いたり、考察を深められたりする。分厚い大傑作だと私は思う。

削られてしまった、原作でのお気に入りのシーンも、井上先生の監督なので納得がいく。どこを深掘りして何が伝えたかったか?原作者から真っ直ぐファンへ届くことって貴重なことだと思うから。

2.私的体験を絡めて(生きてて良かったと思った理由)

まず初めに、私は原作の大ファンであること。連載当時、毎週月曜を楽しみにして読んでいた。あんなに大好きだったものを、大人になってもより一層大好きになれるって幸せなことだと思う。その機会に恵まれたことも。だから心が熱い、映画のことを考えるたびに満たされる。

スラダン連載が終わったあと、ジャンプで井上先生の書き下ろしで「ピアス」という漫画が掲載された。淡々としたストーリーなんだけど、その時あまりにも心を打たれて、そこだけページを破いてホチキスで留め、大切に何度も読んでいた。登場人物の名前はリョータとアヤコで、顔は似ていないけど、スラムダンクに関係あるのかな?となんとなく心に引っかかっていた。

で、映画初見のとき、「あれ?これって『ピアス』の?」と感じる点がいくつかあって、後から調べたら、公式本で「ピアス」が設定のベースとなっていると説明されていて鳥肌が立った。

何年もかけて、伏線を回収された気分。私の人生、小説なのでは?とまで思った。井上先生からのファンへのサプライズかなって、勝手にすごく嬉しかった。井上先生がスラムダンクを連載していたのは20代で、今も元気でご活躍されていて、井上先生が生み出すもうひとつのスラムダンクを同時代で味わえるって、私はなんて幸せなんだろう!

3.【これぞ発明】漫画を彷彿とさせる演出

漫画を彷彿とさせる演出は3つあると思っている。

1つ目、大好評なのが、オープニングのシーン。板に筆記用具がカツカツ当たる音をさせながら一人ずつ登場人物のデッサンが始まり、動き出す。それに曲が乗っていくさまは、何度見てもゾクゾクしてしまう。「あ、生まれた」と思う。

2つ目、試合終盤の無音の数十秒間。個人的には、これこそが「発明」だと思っている。そうだ、連載していたあの頃、圧倒的な試合展開に、1コマずつドキドキしながら没入して読んでいた。その「漫画を読む」行動の感覚を、映画で再現している、こんなことが可能だとは。確かに、漫画でここを読むときは、固唾を呑んで、無言で読み入っていた。それを映画で追体験する。

3つ目、物語の最後は、カラーのアニメーションからモノクロの静止画に一瞬戻って終わる。映画で描かれたサイドストーリーは、原作に吸収されていくのを見せつけられるのだ。

以上、これらの3つ全てが、原作が漫画であることのリスペクトだと感じる。と同時に、漫画スラムダンクを好きでいる原作ファンへの感謝の形だとも、私は受け取った。

4.「○回観た」のマウント取りはもうやめない?

さて、私は原作コミックス、公式本(re:SOURCE)、画集、映画を行ったり来たりして、この天才作家の作品を堪能している。

ちまたでは、何度も足を運ぶファンが、回数を試合になぞらえて「5試合目」などと表現して回数を競っている(ように思う)。私も2試合目までは数えていたが(同じ映画を2度観るのは滅多にないから)、回数って大事なのかな。そりゃ、制作側にお金を落とすという意味では大事だけども、マウントを取る話ではない。

この映画は、一生付き合っていく作品だと思う。何回観たかなんてもはや意味がない。人によって鑑賞の目的は違えど、どれだけの感情体験をしたか、どれだけのメッセージを受け取ったか、どれだけのエネルギーを摂取したか、だ。私はこの先もきっとずっと、スラムダンクからエネルギーを摂取し続けて生きるよ。

「もうやめよう」「もう今日で最後」そう思っているのについもう一度・・・

それが、映画「THE FIRST SLAM DUNK」。井上先生ありがとう、いい薬です。

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※1 作曲家岩田太整さん「BASKETBALL DINER」NBAニュース 12月30日スラムダンク特集より 

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