たんぽぽ仮面のタイムライン

言葉と絵とお酒にムズムズします

〈ご近所さん〉

私のご近所さんが夏目漱石だったなら、こんなに愉快な事はないと思う。

 

名作「坊ちゃん」は笑いたい時に読む本だ。
夏目漱石という人は、なんて面白い人なんだろう。
内容を反芻しながら一人で歩いていると、必ず思い出し笑いをしてしまう。
マスクをするご時世でよかったと思う。

 

そんな贔屓目で、表紙の裏に載ってる漱石の顔写真を見ていたら、案外この人はイケメンなのではと思えてきた。
旧千円札で幼少期から見慣れていたせいだろうか。
顔だけでなく、彼のキャラクター自体がヒットの素質を持っていると感じる。
あのイケメンな顔立ちと、神経質で癇癪もち、そこから紡ぎ出されるお堅い文体、でも中身はとてもひょうきん(※個人の感想です)。
なんて素敵なコラボレーション。
現代に生きていたら、Twitterで世相を切りまくって時々炎上してるだろうし、たまにテレビの討論番組に呼ばれてガチ切れして退場し、Yahoo!ニュースに載るんだろう。

 

もし漱石が、夫や父親、祖父のように自分の家族の一員だったら…と考えたけど、一緒に住んだり関係が近すぎるのは緊張するから勘弁だ。
なので隣に引っ越してきてもらい、是非ともご近所さんとしてお付き合いさせていただきたい。
もっとも、漱石はそういう煩わしいのは嫌いだろうから、私から一方的に付き合いに行く関係になるんだろう。
その時の漱石は60歳くらいで、私はそうだなあ、不躾でもこどもだからと許される年齢がいい。
小学生くらいなのがちょうどいい。

私が
漱石さん漱石さん、英語を教えてくださいな」
とか言って執筆でピリついている漱石の家を訪ね、
「生憎だが吾輩は締切前で忙しくしているのだ。此の度教えた範囲を、お前が金輪際間違わないというのならこの貴重な時間を割いて教えてやろう。」
とかなんとか皮肉っぽく言われて
「はい、金輪際間違えません。漱石さんが教えてくれるのなら、私は断じて間違えません」
と私もしつこくくらいつき、それでも相手にされなかったらぶーぶーと口を尖らせて不満を言うので、
やがて私は「ひょっとこ」とあだ名を付けられたりしたらこれ以上喜ばしいことはない。

 

そして、漱石宅のベランダに洗濯物が干してある時夕立にあったらベランダ越しに漱石さん宅に向かって叫ぶのだ。
漱石さーーん!雨ですよーー!穴のあいた肌着も片方しかない足袋も毛玉のももひきも雑巾みたいな手拭いもみんな、濡れちゃいますよー!」
と煽る。漱石は、聞こえていても返事をしない。年がら年中ピリピリしているのだ。
でも不躾な私はしつこく、
漱石さーーん!雨!雨ー!」
と叫び続ける。ついに漱石
「ええい!やかましい!」
と言ってこちらにベランダのバケツを投げつけるのだ。
なんとも楽しそうな日常。

叶わぬ夢だけれど。
じゃあ今夜、そういう夢がみたい。