〈リスニング〉
学生の頃、チキンを売るお店でバイトをしていた。そこへ、HIPHOP系の身体つきがゴツい男性2人が来店した。
カウンターに肘を乗っけて半分身を乗り出し、英語で何やら注文をする2人。ベラベラベラーっと早口の英語で喋ってくる。
声のデカさと「ヘイヨー」っぽさにビビりつつ、ふふんこっちは現役の学生だぜ上等じゃねぇかと耳を澄ませると、give me とか6 piecesとか言っている。何ちゃらall とか言っている。親指を立てて外を指差している。
なるほどね!チキン6ピース、テイクアウトで頼むぜってことね!ふふん、楽勝じゃん。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
勝ち誇って商品のパッキングにとりかかる私。そしてそつなくお会計へ…の筈だったが。2人のうちの、注文してきたほう、つまりHIPHOPその1が、思いがけない言葉をかけてきた。
「ゥワラ、プリーズ(Water please)」
気が緩み切ったところの突然の一言だったので、思考回路が止まった。聞きなおす勇気がない私は、脳みそをフル回転してみた。出てきた答え。
「は……。…コーラ!コーラでございますか?!」
Water=コーラ。回転させた結果がこのザマである。
「サイズは?S、M、L…」
コーラと信じて疑わない私は質問を続ける。すると、今までただ横で待っているだけだったHIPHOPその2が優しく
「ィエム(M)」
と答えてくれた。
まだ慌てている私なので今度は
「……ィエム?いえむ、いえむ、…伊右衛門!!
あーー申し訳ございません!伊右衛門ではなく、烏龍茶ならあるんですが!」
とか言っちゃう始末。HIPHOPその1は、なんだコイツと言わんばかりの冷たい視線を注いでくるし、HIPHOPその2はバカを優しく包み込む穏やかな表情で見つめてくる。
よく分からない私は、とりあえずにっこりしてみせる。何も解決していない。
「ミジュ、ミジュ、フタツ」
と言ってくれたから、辛うじて通じたのだった。ありがとう、その2さん。あなたはやさしい。
2人は、チキン6本と水2つを受け取り、会計を済ませた瞬間に猛ダッシュで外に出て行った。
急いでたのね。お時間とってごめんなさい。