〈ミミズの恩返し〉
ミミズはなんでアスファルトの歩道に出てきてしまうんだろう。
こどもの頃、父から「ミミズは土を綺麗にしてくれるから、殺してはだめだよ」と教わった。
だから、アスファルトの上で困っているミミズを見つけると、葉っぱですくって近くの土のあるところへはなしてやる。
そうだあれは忘れもしない、通算12匹くらいのミミズを救ったであろう、ある晩のことだった。
私は当時高校生くらいだったろうか。
実家の、工事をする前の浴室は昭和感溢れる造りで、庭に面していたからか、時々虫が入ってきた。
私はいつものようにお風呂に入りシャンプーをしていた。
ふと足元をみると、今までの12匹分が合体したような、巨大な、ミミズの大魔王みたいなのが出現した。
後で父にこの事を話すと、父曰く、今までのミミズたちがお礼を言いに来たということらしい。
が、ミミズの大魔王と対面してしまったその時の私は。
気持ち悪さのあまり、思わず、持っていたシャワーで勢いよく排水口に流してしまった。
さすがにこれを、父には言えない。
今まで救った命を自分でプラスマイナスゼロにしてしまったなんて、とても言えない。
その時の罪悪感から、いまだに私はミミズを救い続けている。