〈弛緩〉
大学で勤めていたとき、学園祭の担当になったことがある。
学部で管理している施設(校舎)を、学園祭の前日から実行委員会(学生)に貸し出す。
施設引き渡しの前後に、職員である私と借りる側の実行委員のメンバーで施設内をくまなく見回って、教室、廊下、トイレ等々の点検を行う。
イベント後の見回りで、イベント前の見回りの時には無かった破損箇所を見つけたら、それを実行委員会に弁償してもらうのだ。
「とはいえ、年2回の学園祭だし最低限のマナーくらい分かってるから楽しくやりたいよねー」というかつて学生だった私と、「壊したらタダじゃおかないよ」という圧をかけねばならない立場になってしまった私との狭間で感情が揺れる、やりにくい仕事だった。
引き渡し前の打ち合わせで、真面目な実行委員の学生さんから色々と質問された。
警備員さんは何時くらいまで入ってましたかとか、去年は実行委員にこの見取り図渡してましたかとか。最後に学生さんから
「見取り図、備品チェック表、デジカメ。あとほかに点検時に持っていた方が良いものってなんでしょうか」
と聞かれたから、
「スピード感です」
と答えたら、そういう事じゃないですと言われた。すみませんって感じだった。
きっちりチェックしなきゃいけないけど、だらだらやるとすっごく疲れる、だから、見取り図よりもチェック表よりも、大事なのはスピード感だなと思ったんだけど、ふざけている場合じゃなかったらしい。
切羽詰まった状況でふっと緩む瞬間が好きだ。
小学生の頃、下校時間に激しい雷が鳴った日があって、今いる校舎がこの音で割れるんじゃないかと思うほどの迫力だった。
怖がって泣き出す子もいた。私も、帰れるかなぁと心配になり、近くの席の友達と
「もし帰る時に雷が鳴っていたら、金属を持っていたら危ないんだよね」
と話していた。
すると、後ろの席に座っている男の子(無口でいつも不機嫌で腕力があり皆から怖がられている男子)がぼそっと
「やばい、おれんち、鉄工場」
と言った。
私にはそれがおかしくておかしくて、でも大笑いしたらまずいなと思って必死に堪えていたのをよく覚えている。
張り詰めた空気が抜ける瞬間は喜劇のようで、こういうのを日常で見つけるのが今でも楽しい。