〈画家のサイン〉
「アントワープ王立美術館コレクション展」に行ったのは、数点だけ展示されているルネ・マグリットの絵を見るためだった。
マグリットの絵はひんやりしていて怖いし、錯視みたいな違和感がその夜の夢に出てきそうでドキドキする。画集は持っていないけど美術館には観に行きたいなという程度の、ライトな「好き」だ。
美術館で、マグリットを見つけるまでに多くの絵画を観て回るうちに、絵の隅に記してある画家のサインが気になるようになった。
おそらく絵筆でさらさらっと描かれたであろう筆記体のサインや、ロゴマークのように丁寧に描き込まれたサイン。なかには幼児の覚えたての字のようなサインもあって、あまりの悪筆ぶりにビックリして動けなくなったりして。絵は頑張って描いたのに、仕上げのサインはなんでこんなに適当なのか。なんかちょっともう、つかれちゃったのかな?
凹んだときや気分転換したいとき。ビールかワインを飲む(気分転換になる)、缶チューハイを飲む(どうでも良くなる)、泡盛を飲む(今夜は捨てる)、などの方法があるなか、1番健康的なセラピーはノーマン・ロックウェルの画集を眺めることだと思う。彼の描く絵はなぜだか涙が出てくる。
ロックウェルの絵は、人間の良いところもしょーもないところも、丸ごと肯定してくるから不思議だ。マンガのような吹き出しもない一枚の絵が、こんなにも饒舌なことってあるんだなとビックリするし、元気がないときに眺めるとあったかい気持ちになってくる。登場人物がオーバーな表情をしている絵より、姿勢の傾きとか目線とか腕に浮き出た血管とかでストーリーを感じさせてくれるような絵が特に好き。
そうそう、ロックウェルのサインは、ロゴのようで、さりげなく主張しつつも絵に溶け込むように差し込まれている。それもとても好き。