〈井の中の蛙〉
「井の中の蛙 大海を知らず」
と馬鹿にされている井戸育ちのカエルさんですが、私はこのカエルはものすごいポテンシャルを持っていると思う。
まず、井戸の中という限定的で過酷な環境のなかで生活を送れるサバイバルの達人。
お天気を予測したり天敵の不穏な気配を察知したり餌をとったりと、井戸の中だけで観察し見通しを立てて実行し続ける力がある。
強靭なメンタルである。
このサバイバーでタフなカエルの日常に、束の間の余暇があるとしたら、ほっと安らぐ時間があるとしたら、寝そべって空を見上げていたと思う。
だって見上げると、井戸の出口がちょうど写真のフレームのように空を切り取っているから。
刻々と変わる空のアートだ。
たぶん、何億もの雲の形を知っている。
さらに、微妙な空の色一つひとつを見分けられ色の種類をいくつも知っている。
日々、空の変化を見続けていたカエルには、きっと並々ならぬ繊細な感性と洞察力も育まれていると思う。
そういった意味では、空と雲の研究者でもあり芸術家でもある。
全く馬鹿にされる筋合いなんてない。
……と、そこまで思って、この言葉をちょっと調べてみたら、「井の中の蛙大海を知らず」の後は「されど空の蒼さを知る」と続くという話もあるみたいだ。
なるほど。うんうん。
話を戻すと、だから、このカエルくんは、井戸から出てやがて大海を知った時に、
「ああ僕はなんて今まで小さな世界にいたんだろう、勿体ない」
と嘆くとは思えない。
海の前で見渡す大パノラマの空のなかに、今まで積み重ねてきた記憶をベースとして新しい不思議を発見したり、井戸の中にはいない生物を見つけて武者震いするんだと思う。
私の「井の中の蛙」のイメージは、そんなふうに逞しくポジティブだ。