〈指示〉
〈指示〉
的確な指示が出せる人は、常に頭の中が整理整頓されているんだろうなと羨ましく思う。
私は今も昔も、下手くそなままである。
勤めている時、職員と学生、何人かで袋詰めをするという作業中、すごく気が利く男の学生さんがいた。
途中で私(職員)がどうしても一旦事務室に物を取りに行かなきゃいけなくて、でもその彼には私が戻って来るまで絶対フリーでいてほしくて(戻ってきたら新たに指示する作業をしてほしい)、彼が袋詰め作業ラインから少し外れたタイミングで壁際に誘導し
「お願いしたいことがあるんだけど、私今から一瞬事務室行かなきゃならないから、私が戻ってくるまで、絶対、何も引き受けないで待っててね!」
とこっそり頼んだ。
「え、じゃ僕何してたら良いんですか?」
と戸惑い気味に聞いてきたけど、私も急いでいたので
「……とにかく、お茶を濁してて!!」
と言い捨て、彼を壁際に残したまま事務室に走った。
数分後作業場に戻ったら、彼は壁の有孔ボード(音楽室によくある穴あきの壁紙)に触れながら、美術品を鑑定するかのように一つひとつの穴をじっくり見ていた。
なんと!律儀に、ちゃんとお茶を濁している!!
自分で無茶を言っておきながら申し訳ないんだけども、「お茶を濁す」を実演しているその状況が超可笑しくて、腹を抱えながら
「もう戻ってきたから!大丈夫だった?」
って聞いたら、彼も笑いをこらえながら
「超〜〜〜気まずかったっす。」
と答えてくれた。
そりゃそうだよね。
あの時の学生さんごめんね。