たんぽぽ仮面のタイムライン

言葉と絵とお酒にムズムズします

〈檸檬(レモン)〉

ご存知だろうか。

梶井基次郎氏の著作「檸檬」。

「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。」

という、不穏な空気がただよう冒頭。

 

あらすじを雑に説明する。

憂鬱な主人公が、果物屋檸檬を手に入れる。気がつくと本屋『丸善』の前に居る。店内に入り売り物の美術本を高く積み上げる。その積み上げた本の上に檸檬を置いてみた。そのまま店を出る。その檸檬が実は爆弾で丸善ごと大爆発したら…という妄想をする という話(雑すぎる)。

 

私は高校の現代文の教科書で初めてこの話に出逢い、憂鬱とそうでない時の揺らぎの描写と、檸檬を爆発させる発想に頭の中がわーっとさざめいたので記憶に残っている。

だから私も怒りややりきれなさに感情が振り切った時は、妄想でその人の頭に檸檬をのせて爆発させている。

 

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子Bが、ままごと道具を広げてレストランごっこをしている。

ハンバーガー、サラダ、フルーツ盛り合わせ。

ひとしきりやり終えたら、その隣で、本棚から絵本を次々と出し始めた。

読むのではない。

絵本をどんどん積み上げている。

私は家事をしながらそれを目撃し

「絵本の塔だ…。隣にはままごとの果物。まさか…いや、でも…」

子Bが梶井基次郎檸檬を知っているはずがない。

けれど私はだんだん興奮し、絵本が一冊また一冊と積まれるのと共に期待が高まっていった。

 

やはり、というか、偶然にも、というか、なんと子Bは、その積み上げた絵本の一番上に、ままごと用のオレンジを載せたのだ!

 

「うわ出たーー!梶井基次郎ーーー!」

私は大興奮し

檸檬だ!檸檬だ!!」

「爆発するやつだー!!」

と一人盛り上がった。

 

この、

「くるぞくるぞ……。きたーーー!」

という過程を、

そしてオレンジを乗せた奇跡的な瞬間を、

一緒に共有し大爆笑し合える人がその場に居なかったことが心底悔しい。

 

子Bは何のことやらキョトンとして、笑い震えて立ち上がれなくなった私に

「これ、オレンジだよ?」

とひややかに言った。