〈飲酒〉
二十歳の誕生日を迎えたとき、1人で神戸へ旅行した。
2泊3日の、ちっちゃな一人旅だった。
宿は、ユースホステルや素泊りのホテルをとったので、夕飯は自分で調達するしかない。
その時初めてバーに1人で入った。
二十歳だから、バーでお酒を飲んでみたかったのだ。
カウンターに通されて、ドキドキしながらシャンディガフとピザを頼んで、マスターの寺好き話を聞いた。
この旅の目的は、写真を撮ったりスケッチしたり文章に残したりすることだったから、帰ってきてから一冊にまとめた。
その作業の方が楽しくて、まだお酒は私にとって人生のチョイ役でしかなかった。
それから数年してお酒好きな夫と結婚し、アルコールざんまいの日々を経たら、今では一人でビアホールに行くのもへっちゃらな女に仕上がった。
先日、それは久しぶりに美容院に行く日、私は朝から心が弾んでいた。
10年近く担当をお願いしているスタイリストさんが、育休を明けて復帰するからだ。
しかも、夫の送り出しの言葉はこうだった。
「せっかくだからゆっくりしてきてね。
飲んで帰ってきてもいいからね」
ご飯食べてきても、ではなく、お茶してきても、でもない。
私は一人でも飲んで来られる女だと理解しているあたり、夫婦の年月の長さと深さを感じるではないか。
最高だ。それなら、飲んで帰るに決まってる。
家事育児、あとは任せたぜ。
美容院でゆったり過ごしたあと、ビアホールに入った。
お店の入口で「1人です」と告げた時のウエイターの「ここはカフェじゃないんだが」という雰囲気に抗いたくて、一杯目の黒ビールを最速で飲み干し、そのウエイターを呼んで追加のビールをオーダーしてやった(謎のプライド)。
未読の文庫本を携えて、新しいヘアスタイルで、ぴかぴかの心境で、ペールエールは琥珀色に澄んでいる。最高だ。
この過ごし方は、最&高だ!!
ご機嫌で帰宅したら、夫が
「もしベロベロに酔っぱらっても迎えに行けるように、ノンアルコールで過ごしてたよ〜」
と言ってくれた。
申し訳ないので、夫を誘ってリビングで二次会をした。