〈DJのはたらき〉
若かりし頃、クラブ(『さんま』と同じイントネーションの方)に数回だけ行ったことがある。
先輩や友達がステージでライブをするからそれを数人で観に行ったのだった。
私は飲み会やオールが好きだったけど、ウェイウェイした華やか系女子ではなかったので、クラブに行ったら正直何して過ごしていいのか落ち着かなかった。
フロアで艶かしく揺れる元ダンス部の子に誘われて私も何となく揺れてみたけど、
薄暗いフロアの一角にあるガラス張りのVIPルームの方が気になった。
そこではファンキーな格好をした年配の女性が、可愛くてお洒落な男女を侍らせて満足げにボトルのお酒を飲んでいた。
どんな世界だと思って、こちらは限りなく水っぽいカクテルをちびちび口にしながら横目で観察したりしていた。
ステージがない間は、DJが音楽をかけていた。
フロアで踊る人のなかにはDJブースの前に集まる人もいた。
彼ら彼女らは、曲が切り替わるたびに賞賛の声をあげて盛り上がっていて、その意味が私にはよくわからなかった。
いい曲に変わったから?ナイスチョイス的な?
それかあの集団はみんなDJの友達で、DJの気持ちを盛り上げてるのかな?
タイミング的に曲が替わったときが一番声を発しやすそうだし。
モヤモヤと疑問のままだったが、その後、DJ経験のある人の話を聞く機会がありようやく分かった。
その人は自宅にDJセット(と、いうダサいネーミングな筈ないが)があるらしく、それで複数の曲を繋いでCDを作り、知り合いに配っていた。
録音の工程は、私が理解した限りではこうだ。
・あらかじめ、どの順番で流すか決める
・二つのお皿で2枚のレコードを回し、今かけている曲を聴きつつもう片方の耳(ヘッドホン)で次に流す曲を聴く
・タイミングを計って(ちょうど両方のテンポやなんかの重なり合うところで)スムーズに曲を移行させる
・あらかじめ録音しておいた効果音を適宜入れ込んだりする
・そして、この録音作業の全ては一発勝負である
最後!
「一発勝負である」のところで私は、あの時DJの周りにいた集団のように、心の中で歓声を上げた。
私は、舞台演劇や即興演奏や書道やハンドメイドなど、一発勝負!この場限りの出来!なものが大好物なのだ。
これを聞いたから、今度は私もDJの周りに集まって、一緒にウェイウェイ出来るかもしれない。
けど、これは今から10年以上前に聞いた話だから、今はもっと簡単に編集作業して、修正だってちょちょいと一手間でやれちゃうのかもしれない。
だとしたら、私の好きな、一発勝負!ではないのでちょっと、興醒めだ。
では、私の知るDJのはたらきは、10年以上前の技術を使う知識のところでいったん止めておこうと思う。
そうだ、そうしよう。