たんぽぽ仮面のタイムライン

言葉と絵とお酒にムズムズします

〈魔女〉

f:id:retimeline:20210929143350j:plain近所の小学校の図書室には、司書さんが常駐していないらしい。


私が高校3年生の時、昼休みに一人で図書室に通い詰めていた時期があった。
図書室のカウンターにはいつも、黒づくめの服装で、黒髪のおかっぱ頭に赤い口紅の、小柄で華奢な年配の常駐司書さんがいた。
通い慣れていくと少しずつお喋りするようになり、私の好みを把握してくれてお薦めを次々と紹介してくれるようになった。

昼休み限定の、本の話題だけのお付き合いだったけど、年配の女性と本を介して親しくなっていく特別感にワクワクしたものだった。

私はその話を何度かこども達にしているらしく、「お母さんが高校の時に図書室で」
と切り出すと
「知ってる。図書室の魔女の話でしょ」
と言われる。図書室の魔女。何その小説みたいなタイトルは。
でも、そう、確かに、彼女は図書室の魔女だった。
受験を視野に自分の学びたい学問分野がわかってきて、細かい活字の分厚い本が読めるようになった私に、読書の道筋を示してくれた魔女だった。

図書室の魔女が、小学校に居ないのはとても惜しい。
司書さんがいなくて、今のこども達は何の情報から本を手に取るんだろう。